「全く同じね……」 「ホントだ……。じゃ、実際にあったって事だよね」 瑞希と沙紀が声をそろえて言った。放課後になると、そこは誰も尋ねることはない。 それを利用して、有川はあの事件のときに一緒にいたメンバーを呼び出した。 しかし、沙紀、瑞希も一緒にネットで探した挙句、有川たちと同じような情報をネットで仕入れていた。十中八九偽りではないのだと確信したメンバー。 「何か、妙に引っかかるわね」 と、沙紀は眉を顰め言った。 「どうして?」と有川がその質問に質問を返す。 「昭和のこの年、私たちが生まれた日よ。妙だと思わない?」と冷酷な笑みを浮かべる。 「たまたまー……よ。きっと」 有川が言葉を濁すともう一度2つの記事を持ち、再度黙読する。 その時、保健室のドアが開かれた。 賢一が恵美子を探しに行ってたのだが、なにやら様子がおかしい。 「そんな事言ってたら、皆疑い持っちゃうよ。そういうの絶対いや! 瑞希だってそれで辛い思いしてきたのよ?」と恵美子。 「だから、違うって言ってんだろうが! 一つの方法に、そういう見方もあるって言ってんだよ」 保健室に入ろうとする賢一だが、恵美子は廊下に立ったまま賢一に言葉を返している。 皆が2人に注目しているという事にも気づかず……。一向に引かない2人を見て有川が2人の元まで歩み寄る。 「どうしたのよ、貴方たち」 恵美子は涙ぐみ、保健室から出、駆け出した。次いで賢一も追いかける。 「賢ー……」 瑞希が賢一を呼び止めようとドアまで近づいたとき、突然大祐が顔を覗かせた。驚いてその場にへ垂れ込んでしまう。 そんなこともお構い無に、大祐は手を差し伸べ、同時に質問をする。 「どうした、あいつら」 「さ、さぁ……?」と首を傾ける瑞希。大祐は2人が行ってしまった方向へ顔を向けたまま、動じる事はなかった。
* *
日差しが傾き始めた頃、賢一たちは戻ってきた。後ろから、賢一に導かれるようにして、俯き加減にトボトボと歩く恵美子。 それから10分後、それぞれが解散した。 「泣かせたのか?」 大祐は唐突に聞いた。恵美子との仲をあまり良く知らないがための質問だったのだが、賢一にはもうどうでもいいような感覚でしか掴んでいない。 「ちげーよ」 大祐はポケットから財布を取り出すと、240円を取り出し、投入口に120円ずつ入れる。賢一の好みは分からなかったが、同じものでいいだろうと考え選ぶ。 「よく分かったな。俺がこれ、好きだって」 その言葉に少々驚いたが、まさか本音を言えない彼は「男の勘」と言い、そう答えた大祐に対して賢一は面白おかしく「バーカ。んなわけねぇだろ。俺は無糖派だ」と返す。 賢一は自らコインを投入すると、無糖珈琲を選んだ。 「……少しは“すまない”くらい思えよ」 「瑞希にあげたらいいじゃん。あいつ、それ大好きだしさ」 そう言われ、ますます無口になる大祐。 「好きなんだろ? あいつの事……にしては小林をくっついてるよな。真相はどっち?」 「ノーコメント」 「ふーん。ま、良いけど。武田って、結構おしゃべりなのな」 ゴクッと一口飲むと、苦くコクのある香が口の中に広がっていく。 「そうか? 物静かで何が言いたいのか分からんって言われるけど」 「瑞希と喋ってるじゃねぇか」 すると大祐は突然黙り込んでしまった。 「そう再々黙り込むんじゃねぇよ。減るもんじゃねぇだろ?」 「そういう問題じゃねぇよ」 「そうか?」 そういうと、大祐は黙り込んでしまった。珈琲が喉を通る音が聞こえるくらいの静かな空間。 その間、賢一は考えていた。やはり、あの出来事は嘘だったのだろうか……と。 しかしそう考えるとやはり辻褄が合わない。その間の出来事、あの猛獣に噛み付かれた感覚。痛みはさほど強くなかった。しかし、感覚はあった。 それに、あの出来事が嘘だといってしまうと、ではあの空白に自分たちは一体何をしていたのかという疑問に差し掛かるわけで。もし嘘だとすると、瑞希や沙紀、有川たちの体験がまるっきり出鱈目になる。そこまで考えるとやはり嘘だとは思えない。 しかし、今のこの現状が嘘のような感覚になってくる。 そしてまた何時、あの暗闇に襲われるか…… 「よくあいつの名前、言えるよな」 大祐が突然口を出してきたので、賢一の思考が途切れた。「え?」と大祐の言葉に耳を向ける。 (あいつ?)と考え、直ぐに(あぁ、瑞希のことか)と呆れた顔で納得する。 「言えるだろう、フツー」 「言えてたら、苦労しねぇよ」 「何でもない、友達って思えりゃ良いんじゃねぇの? そんな呼び方を気にしてると、いつまで経っても告白なんて成功しねぇぞ? その前に、誰かに取られるって事もあるんだぜ?」 「ライバルが現れるとでも言うのかよ……」 「十人十色って言えば分かるか? 相手の事をどんな風に見るかは人それぞれ。あいつに恋したお前が居るんだから、お前と同じようなものの見方をする奴が現れたら、そいつがお前より物事をはっきりする奴だったらあっという間なんだぜ?」 今までちゃんとした恋愛をしたことの無い大祐にとって、何もかもが分からないものだった。 今まで、誰かを見るたびに「キャーキャー」と騒ぐ女子たちの気持ちが分からなかった。 それなら話しかけたらいい事だろうと、冷ややかな目で見ていたのも事実。とにかくうるさい女子たちに、たとえその矛先が自分でなくともうんざりしていた。 よくああいうものに関れるよな、と、その女子たちに関る男子に対しても不思議な感覚であった。 自分と彼らを結びつけるようなものでもないが、なんとなく気持ちが分かってきていた大祐は、彼らの行為にまだ不快感を感じながらも、なんとなくの納得を感じ始めていた。 「誰かが、ライバル……か」 その大祐の呟きに、賢一は切ない顔をし、「瑞希」と呟いたことを、大祐は知るよしも無かった。
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学校は、放課後を迎えつつあった。 沙紀はカバンに教科書を詰め、瑞希に顔を向けた。 ずっとボーっとしながら、さっきも遠くを見つめていた。滅多に先生に当てられる事がない。注意を受けるような性格でもないので、先生もまして気にしていなかったようだ。 それでも不安になった沙紀は、瑞希の傍に歩み寄る――と、丁度その時だった。 「瑞希―!」 「……へ?」 「見てみて! これ。Messiahのオープンライブ! 近日公開なんだって」 チラシを片手に、人差し指でチラシを突きながら瑞希の顔に近づける恵美子。 いつもと変わらない彼女のようで、けれど何か違和感があった。 「恵美子さん、何かあった?」 そう言われると、彼女は急にしんみりとしだした。とっつかれると、本当にうそをつけない。 いや、うそを付けないのではなく、こうして直ぐに察知して気遣いをしてくれる瑞希に、自分の気持ちに対しての救いを求めていたのだ。 彼女にとっては、瑞希が救いだった。 「瑞希は絶対に人を嫌いになんかならないよね? 疑ったりしないよね? あの時のメンバーも、奇妙な現象の事も……」 今にも泣きそうな彼女を見て、一瞬何が起こったのか理解できなかったが、直ぐに賢一との事柄だとわかった。 「言えることは「嘘じゃない」。もし嘘だったら、あの出来事をこうして皆が覚えてないだろうし、皆が同じもの、同じ体験をするはずがないでしょ? 人も疑えないしね。あんな変な事を、変な現象を出せる人間がいるわけがないもの」 彼女は瑞希を見るなり、心配しつつあった表情がだんだん穏やかになっていく。それを瑞希はとても安心した。 「やっぱり恵美子さんはそうでなくちゃ」 と微笑む恵美子の顔を見てそう言い、そういわれた恵美子は顔を赤らめた。 |