陰陽の救世主

第1章 学園怪事件
21.集中攻撃

 自分を包むものの感覚に、違和感を覚え、重い瞼を開けた。
 どれくらいそうしてきたのだろう・・・。
 ずっとピクリとも動かなかった彼女の身体はガチガチに固まっていて、体中の節々が悲鳴をあげていた。
 似合わぬこの状態で大きく背伸びをすると、ゆっくりと立ち上がった。辺りを見回すと、どこかの工場現場。
 ドラム缶、タイヤ、クレーン車などが無造作に置いてあり、初めて見るこの光景にただ大きく目を見開いて何度も顔を左右に移動させることしか出来ない。
「どこここ・・・」
 声にならぬ声で、何かに問いかける。
 ひんやりとした空気が、瑞希の体温を下げる。ぶるっと震える身体。
 ずっとここで、寝ていたのだろうか?
 いつから?
 どこから記憶が途切れている?
「・・・・・・んぅ・・・」
 確か、家で・・・
「洗濯物のとき・・・声がして、怖くなって? ケータイ? ・・・・・・そっか。そうだ。洗濯物を取ろうとしたら不気味な声が聞こえて、怖くなって、それで――・・・・・・ 如何してここに居るの? 私・・・」
 もう一度見回す。
 どこかに有川ちゃんがいるの?
 しかし、人気が全く無い。
「やっと、目覚めた?」
 細いソプラノ調が、上空から聞こえた。
 吃驚して上空に顔を向ける。しかし、何一つ無い。
「無駄よ。今の貴方に私は見れない」
「――どういう、こと?」
「失望しましたわ。まさか忘れられてるなんて・・・。そんなに心身に影響を及ぼしてしまうほどのモノでしたの?」
「・・・? 何のこと!?」
「恍けないで」
 次第にそのものの姿が明確になる。しかし、それと同時に、辺りは薄暗くなってきた。
 夕暮れが近くなってきた。しかし逆に、辺りが暗くなることでその者の姿が明確になってきた。しかし、明確になってきたはずが、謎が深まる。
 黒いマントに身を包み、マスクを嵌めている顔。
「誰、なの?」
 ゆっくりと下降するその者を、心臓をバクバクと鳴らしながら見る瑞希。
「・・・私は、Lana」
「らな?」
 なな? らな? と何度も繰り返しながら、じっと見つめた。
「貴方を殺すために、ここに来たのよ」
(殺す!? 誰? 私を!?)
 ジリ・・・ジリ・・・と下がろうとすると、Lana・・・はゆっくりと手の平を瑞希に向けた。
「予定外だったわ。でも、こうするのも一つかもって、思ったのよ」
「ま、待って! 幾つか質問したい」
 瑞希は時間を稼ぎたかった。どうにかしてこの場から・・・難を逃れたかった。目で辺りを再度確認する。
 自分を守れるもの・・・。あらゆる方向へ目を動かせる。
 あるのは、ドラム缶、タイヤ、テトラポッド、クレーン車、そして・・・何かのボックス。
 しかし、ところどころにポツリとあるくらいで、一塊になってない。
「良いわ。何かしら?」
 あっさりと承諾してくれた。それを不気味に思いながら、先ずは・・・。
「学校のあの真っ暗な空間は貴方がやったこと?」
「えぇ。そうよ」
「あの不気味な怪物も!?」
 えぇ、とあっさりと言った。
「私と沙紀を・・・・・・会えないように、話せないようにしたのも?」
「まぁね」
 鼻でフンッと笑った。しかし、それに不思議と怒りは感じなかった。瑞希が質問しないでいると。向けた手の平から何か光が見えた。驚いて次の質問を考える。
「あ、ど、どうしてあんな事をしたの?」
「フッ。貴方に会うためよ」
 え? と眉を顰める。
「貴方に会うために、存在を確認するために、力を確認するために、やったの」
「存在? 力?」
 一体何を言っているのだろう。会話が会話として成り立ってないようにも感じられたがそんな事を考える余裕すらなかった。
 そして会話は無駄のようで、その光はどんどん大きくなっていく。息を呑む。
「もう、質問は終わり?」
 ――それが合図だった。
 その光は瑞希に向けられ、放たれた。
 両腕でクロスさせ顔を俯かせて、守る態勢に出る。
“リン・・・”
 と耳元で、鈴の音が聞こえた。
 何だろうと少し目を開けると、目の前は白熱球のような眩い光が、自分の前を分散していた。目を細める。
(眩しい・・・)
 身体のどこにも当ってない。頭をぐるぐる回転させるように辺りを見回した後、ハッとして耳たぶに着けているピアスを外した。
 そのピアスは元の色である赤から、黄色へと変化して大きく光り輝いている。
「わ・・・ぁ・・・・・・」
 それは宙に浮かぶ。その現象に瑞希の思考は停止するほどだ。
 そしてその光は突然消えた。瞬間に、光線が瑞希に向かい、体に突き刺さる。
「――――・・・!!」
 勢いよく後ろに飛ばされ、ドラム缶に当ると息も堰も出来ないほどの痛みが襲った。
 強く噛み締めながら、荒い息を立てる。
 ゆっくり顔を上げると、もう既にLanaが2メートル付近まで近づいて来ていた。瑞希は体の痛みを感じつつも直ぐに立ち上がり、その場を離れた。どこかの物影に身を潜めると、じっとLanaの様子を伺い見る。
 散乱するタイヤに手をかけようとした瞬間、それは跡形もなく消えた。その弾みで、倒れこむ。
 見上げると、また近づいて来ていた。立ち上がり、また違う場所へと走っては移り、走っては移り・・・
「無駄よ」
「・・・・・・」
「逃げられると思ってる?」
 何もない場所で躓き、バランスを崩し倒れる。背後を見ると、少し宙に浮いたLana。ゆっくりと近づいて来ていた。
(逃げられるわけないって・・・何となく分かってる・・・でも・・・・・・)
「はぁ・・・・・・望みが、無いって・・・く、わ、訳じゃないでしょ?」
「・・・・・・ふーん? その強気はどこから来るのかしら?」
 再び片手を上げるLana。其処からまたあの光・・・
 ゆっくりと大きくなる。
“貴方を殺すため”
“殺すため”
「・・・っ」
 何とか成る。
 何度もそう言い聞かせる。
 大丈夫、だ、と。
「ばいばい。瑞希」
 向けられる手と、光。
 大丈夫! と希望を望みながら、ギュッと目を瞑る。
 ・
 ・
 ・
 ・
「・・・・・・?」
 なかなか自分に当らないあの衝撃に、不思議に思いながらゆっくりと目を開けると、目の前は黄金に光る何か物体が見えた。
「な、何? 鎌?」とLana。
 その物体の解き放つ光は、上空何メートルかは定かではないものの、非常に高い範囲まで上っていった。
「ま、眩しい」
「・・・ぅ・・・」
 お互いが顔を伏せると、Lanaは名残惜しさとともに姿を消す。瑞希はその光に包まれると、催眠術に掛かったかのように、意識を手放した。
 そのままその光は消えていった。その物体と一緒に・・・・・・

「! 沙紀? 賢一・・・」と迷いながら有川が発した。
「有川さん、武田君も・・・」
「恵美子!?」
 ある場所に、メンバーが揃った。
 皆、不思議な光を見たのだろう。それぞれが顔で確認をすると、工事現場へと向かう。
 様々なものの散乱を見て、それは今起こったことではないと確認する。元々ここはあまり整備されてない。
「ぁ、いたぁ!!」恵美子の声に、皆が彼女の顔を見ると、その視線の先に顔を向ける。
 倒れている。
 ほぼ同時に走り、駆け寄った。
「瑞希! 瑞希!!」
 賢一が肩を揺さぶる。がくがくと揺れるが意識は無い。「気を失っているみたいね」有川は念じるように言うと賢一に静止させ、周囲を見渡した。
 一体何があったのか。沙紀も立ち上がり、同じように周囲を見渡すと、近くに光る何かを見つけた。目を細めてチラリと有川を見ると、有川もそれの存在に気づいたようで、ともに頷く。その物を確認すると、それは彼女が身につけていたはずのピアス。 沙紀はそれ拾うと、有川に差し出した。
「ピアス? 如何して外れたのかしら・・・」
「本当にここで何かが起こったか、もしくは、自然に外れた、か」
「それはおかしいだろ」と賢一。「あの光が何でも無かったって言うのか?」
「あの光が、これから発せられたって証拠は、無いわ。とにかく。家に戻りましょう」
 有川は瑞希の体を整えると、顔を上げ、賢一と大祐に顔を向けた。
「どっちが腕力ある?」
 お互いが顔を見る。
 賢一が顔を背けると、
「俺はもう少し、ここを調べてから行くわ」
 と言い、メンバーから離れた。

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