陰陽の救世主

第1章 学園怪事件
20.ミツケタ ヤット

 深い闇の中に、きらりと赤い瞳が光る。
 その瞳は瑞希の眠る、有川の家をじっと見つめている。
 顎に手を添えると、顔を傾けた。
「いるわね・・・」
【?】
「前世を知るものが・・・。誰?」
 眉を顰める。
 しかし、相手が自らバリアーを張っているのか、様子の確かめが出来ない。
(読まれているの?)
 焦りと緊張。
 もし・・・
 もし、わたくしの存在が・・・ いいえ。そんな事はさせない。
Lana
「・・・駄目よ」
 光り輝く炎は、静かに消えていった。
Lanaはそれを確認するとまた、家に目を向ける。
 一体誰なのか。前世を知るもの・・・
 早く見つけださなければ・・・全ての計画が何もかも・・・
 でも・・・
「もし知るなら、如何して手を出してこないの。 !! やっぱりあの子が知ってた? ・・・いいえ。それはありませんわね」
 焦りは禁物
 何度も言い聞かせる。
(どっち?)
 一体どちらを優先させるべきなのか。
 前世を知るものの正体が優先か、計画通りの行動を優先か。もし、正体が先となると、その者は自分の知力、術力、魔力を既に知っている可能性が高い。しかし、計画通りに行わなければ、自分は不利となる。
 まさか、こんなところで予定がずれるとは・・・
 けれど、そういうことを予測していなかった自分も悪い。
 いや、皆が普通の生活をしていた。
 普通の生活?
 ならば、如何してこれらを予測してなかった?
 藍川、中原、武田、小野、有川、小林・・・
 藍川は・・・論外だ。
 残るは
5人。
「・・・・・・」
 皆が、普通の生活を、今まで・・・
 今まで・・・普通の?
 今まで?
「そうか。今まで、だわ。・・・!! 指輪!! そうよ。戻るとしましたら、指輪しかありませんわ」
(となると)
 前世を知る者は、
2人となる・・・? 可能性が無いこともない。
【クスッ。貴方らしいわね。】

 ふと、誰かの視線を感じ、沙紀は息を殺した。
 有川の家に来ている者以外の気配が、廊下にあった。
 目を大きく開き、辺りをぐるぐる探っていると、いつの間にか背後に黒いコートを羽織った、全身黒の人物が立っていた。
 吃驚して小さく悲鳴をあげる沙紀。
「・・・・・・な、何者?」
 心臓がバクバクと鳴った。身体から出て行きそうなくらい、大きく。
 その物体はゆっくりと沙紀に近づいてきている。ギシッ、ギシッと微かに木の音が聞こえる。
 存在するものだと判断するのにはかなりの時間を要した。
“ミツケタ ヤット”
 頭の中で声がしたと思うと、その物体は次第に薄れていく。
「――中原、お前砂糖は要るのか?」
 全てを聞き取れなかったが、ほんの一部だけが耳に入ってきた。しかし、その言葉を口に出来ず、「・・・あ」とだけ声が漏れた。
「沙紀?」
 廊下に立ちすくむ沙紀を有川が見つけると、そっと肩に触れた。顔がピクリと動きギクシャクとした目が辺りを映す。
「どうしたの?」
 有川が沙紀の顔を覗きこむと、沙紀も有川の顔を確かめた。
 沙紀は顔を俯かせると「・・・なんでもないわ」と言って、避けるようにして有川から離れた。
 台所から顔を出し、大祐が沙紀の名を呼ぶその瞬間に沙紀が早歩きで去っていく。
「あいつ、何かあったのか?」
「さぁ。沙紀はミルクだけで良いわ」
 リビングへ戻ろうとする前に、有川はチラッと瑞希の様子を伺いに、和室へと向かった。
「――――・・・沙紀?」
 沙紀は名を呼ばれると、ゆっくりと有川に顔を向けた。
 その瞬間、何かの糸がぷつりと切れたように、沙紀はそのまま垂直に倒れてしまった。その場を動けないほど驚いて立ちすくむ有川を傍に、大祐が駆け寄り起こす。
「中原? おい! 中原!!」
 まさか、と思い、有川は部屋の様子を見るが、何も変化はない。
 ――――何故?
 沙紀が?
 何があったの・・・
 あの場で、沙紀の身に一体何が起こったというの?

 沙紀を寝室へと連れて行くと、有川の携帯が鳴った。画面を見ると、登録外の番号。
 なんの迷いなく、ボタンを押す。
≪清観病院、野本です。有川様のお電話で間違いありませんか?≫
「・・・っ・・・はい」
≪あ、いつもお世話になっております≫
 初めてだって・・・と心でからかいながら、相手と話し始めた。

 ――――・・・!?

 通話始めて間もなかった。
 相手の言葉に耳を疑う。
 しかし、「え?」と言うことは出来なく、ただ何度も「はい、はい」の繰り返し。
 電話が終わると如何して言いか分からないまま、有川は全員・・・瑞希と沙紀を残し、残りのメンバーを集めた。
 そして、告げられるその内容に、皆が唖然と・・・衝撃的だという疑惑の目を有川に向けた。
 しかし、それは偽りではなく・・・
「照美ちゃん、それって、どういうこと? 他の患者さんと・・・」
「いいえ。何もかも当ってた・・・」
「じゃ、“あの時の奈菜”は!?」
 その質問に有川は頭を抱える。
「・・・・・・っ・・・。とにかく、奈菜は“無事退院できた”って」
 ふぅ、とため息視ながら、有川は終話を促す。
「――あの時の小林さんが、小林さんじゃないのよ」
 周囲がその声に驚き、その者に一斉に視線が注がれた。
「沙紀・・・」
「ごめんなさい。ちょっといきなり意識が切れちゃったの。もう大丈夫」
 目を細め、迷いながら微笑む。
「大丈夫なの?」
 恵美子が恐る恐る聞くと「えぇ」と返事をする。
「瑞希はまだ起きてない?」
「・・・え? 見に行ってみたら、姿なかったから、ここにいるんじゃないかって」
 その瞬間に、みなの目の色が変わった。
 居ない!?
 合図無しに、一斉が部屋を出ると、分裂し、名前を呼びながら家の隅々まで探す。
 5分ほど後で、この家にいないという結果。
「どこに行ったの・・・」
「行くって・・・目覚めたら不思議に思うのが当たり前で・・・・・・」と恵美子があの光景を思い出しながら呟く。
「真っ先に有川の名か、中原を呼ぶだろう・・・」
「誰か、瑞希が行きそうな場所って知らないのか?」
「行きそうな場所、じゃなくて行かされた場所、じゃないの?」賢一の質問に、沙紀が皮肉に返答する。
「・・・・・・?」
「行きそうな場所、なら、行かないわよ」
 有川は助言をして、リビングへ向かう。
「この家には居ない。ここにずっと居たって、何も変わらないでしょ」
 沙紀は有川の腕を掴み、一時引き止めると、「2手に分かれましょう。恵美子さんは連絡があるまで有川さんの家に。私と賢一さんは学校、有川さんと武田君は瑞希の家に」と言って顔を窺いみる。
 少々恵美子の反応に心配したが、微妙に頷くのを確認すると、それぞれが別れた。
 数百メートルほど走ると、賢一は沙紀の腕を掴む。
「お前、有川と一緒の方が良いんだろう?」
 沙紀の気持ちを、賢一が言った。何となく、読み取られているだろうと、少々の予感がしていたのだ。
「どうして俺と一緒を選んだんだよ」
「誤解を生むような言い方、しないでくれる?」
 沙紀は少しきつめに睨む。
「――あ、わりぃ。・・・何か理由でもあるだろう」
「歩きながら、喋りましょう・・・」
 一間置いて、口が再び開く。
「私と有川さんが一緒だと、男ペアと女ペアになって、いざと言う時難しいでしょう。力関係の事件に巻き込まれる恐れがある」
「じゃ、俺と有川、お前と大祐だったら?」
「それは流石に・・・。でも、賢一さんと有川さんだったら、また揉めるんじゃない?」
「そうと・・・きますか」と頭を掻く。

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