深い闇の中に、きらりと赤い瞳が光る。 その瞳は瑞希の眠る、有川の家をじっと見つめている。 顎に手を添えると、顔を傾けた。 「いるわね・・・」 【?】 「前世を知るものが・・・。誰?」 眉を顰める。 しかし、相手が自らバリアーを張っているのか、様子の確かめが出来ない。 (読まれているの?) 焦りと緊張。 もし・・・ もし、わたくしの存在が・・・ いいえ。そんな事はさせない。 【Lana】 「・・・駄目よ」 光り輝く炎は、静かに消えていった。Lanaはそれを確認するとまた、家に目を向ける。 一体誰なのか。前世を知るもの・・・ 早く見つけださなければ・・・全ての計画が何もかも・・・ でも・・・ 「もし知るなら、如何して手を出してこないの。 !! やっぱりあの子が知ってた? ・・・いいえ。それはありませんわね」 焦りは禁物 何度も言い聞かせる。 (どっち?) 一体どちらを優先させるべきなのか。 前世を知るものの正体が優先か、計画通りの行動を優先か。もし、正体が先となると、その者は自分の知力、術力、魔力を既に知っている可能性が高い。しかし、計画通りに行わなければ、自分は不利となる。 まさか、こんなところで予定がずれるとは・・・ けれど、そういうことを予測していなかった自分も悪い。 いや、皆が普通の生活をしていた。 普通の生活? ならば、如何してこれらを予測してなかった? 藍川、中原、武田、小野、有川、小林・・・ 藍川は・・・論外だ。 残るは5人。 「・・・・・・」 皆が、普通の生活を、今まで・・・ 今まで・・・普通の? 今まで? 「そうか。今まで、だわ。・・・!! 指輪!! そうよ。戻るとしましたら、指輪しかありませんわ」 (となると) 前世を知る者は、2人となる・・・? 可能性が無いこともない。 【クスッ。貴方らしいわね。】 ふと、誰かの視線を感じ、沙紀は息を殺した。 有川の家に来ている者以外の気配が、廊下にあった。 目を大きく開き、辺りをぐるぐる探っていると、いつの間にか背後に黒いコートを羽織った、全身黒の人物が立っていた。 吃驚して小さく悲鳴をあげる沙紀。 「・・・・・・な、何者?」 心臓がバクバクと鳴った。身体から出て行きそうなくらい、大きく。 その物体はゆっくりと沙紀に近づいてきている。ギシッ、ギシッと微かに木の音が聞こえる。 存在するものだと判断するのにはかなりの時間を要した。 “ミツケタ ヤット” 頭の中で声がしたと思うと、その物体は次第に薄れていく。 「――中原、お前砂糖は要るのか?」 全てを聞き取れなかったが、ほんの一部だけが耳に入ってきた。しかし、その言葉を口に出来ず、「・・・あ」とだけ声が漏れた。 「沙紀?」 廊下に立ちすくむ沙紀を有川が見つけると、そっと肩に触れた。顔がピクリと動きギクシャクとした目が辺りを映す。 「どうしたの?」 有川が沙紀の顔を覗きこむと、沙紀も有川の顔を確かめた。 沙紀は顔を俯かせると「・・・なんでもないわ」と言って、避けるようにして有川から離れた。 台所から顔を出し、大祐が沙紀の名を呼ぶその瞬間に沙紀が早歩きで去っていく。 「あいつ、何かあったのか?」 「さぁ。沙紀はミルクだけで良いわ」 リビングへ戻ろうとする前に、有川はチラッと瑞希の様子を伺いに、和室へと向かった。 「――――・・・沙紀?」 沙紀は名を呼ばれると、ゆっくりと有川に顔を向けた。 その瞬間、何かの糸がぷつりと切れたように、沙紀はそのまま垂直に倒れてしまった。その場を動けないほど驚いて立ちすくむ有川を傍に、大祐が駆け寄り起こす。 「中原? おい! 中原!!」 まさか、と思い、有川は部屋の様子を見るが、何も変化はない。 ――――何故? 沙紀が? 何があったの・・・ あの場で、沙紀の身に一体何が起こったというの?
沙紀を寝室へと連れて行くと、有川の携帯が鳴った。画面を見ると、登録外の番号。 なんの迷いなく、ボタンを押す。 ≪清観病院、野本です。有川様のお電話で間違いありませんか?≫ 「・・・っ・・・はい」 ≪あ、いつもお世話になっております≫ 初めてだって・・・と心でからかいながら、相手と話し始めた。
――――・・・!?
通話始めて間もなかった。 相手の言葉に耳を疑う。 しかし、「え?」と言うことは出来なく、ただ何度も「はい、はい」の繰り返し。 電話が終わると如何して言いか分からないまま、有川は全員・・・瑞希と沙紀を残し、残りのメンバーを集めた。 そして、告げられるその内容に、皆が唖然と・・・衝撃的だという疑惑の目を有川に向けた。 しかし、それは偽りではなく・・・ 「照美ちゃん、それって、どういうこと? 他の患者さんと・・・」 「いいえ。何もかも当ってた・・・」 「じゃ、“あの時の奈菜”は!?」 その質問に有川は頭を抱える。 「・・・・・・っ・・・。とにかく、奈菜は“無事退院できた”って」 ふぅ、とため息視ながら、有川は終話を促す。 「――あの時の小林さんが、小林さんじゃないのよ」 周囲がその声に驚き、その者に一斉に視線が注がれた。 「沙紀・・・」 「ごめんなさい。ちょっといきなり意識が切れちゃったの。もう大丈夫」 目を細め、迷いながら微笑む。 「大丈夫なの?」 恵美子が恐る恐る聞くと「えぇ」と返事をする。 「瑞希はまだ起きてない?」 「・・・え? 見に行ってみたら、姿なかったから、ここにいるんじゃないかって」 その瞬間に、みなの目の色が変わった。 居ない!? 合図無しに、一斉が部屋を出ると、分裂し、名前を呼びながら家の隅々まで探す。 5分ほど後で、この家にいないという結果。 「どこに行ったの・・・」 「行くって・・・目覚めたら不思議に思うのが当たり前で・・・・・・」と恵美子があの光景を思い出しながら呟く。 「真っ先に有川の名か、中原を呼ぶだろう・・・」 「誰か、瑞希が行きそうな場所って知らないのか?」 「行きそうな場所、じゃなくて行かされた場所、じゃないの?」賢一の質問に、沙紀が皮肉に返答する。 「・・・・・・?」 「行きそうな場所、なら、行かないわよ」 有川は助言をして、リビングへ向かう。 「この家には居ない。ここにずっと居たって、何も変わらないでしょ」 沙紀は有川の腕を掴み、一時引き止めると、「2手に分かれましょう。恵美子さんは連絡があるまで有川さんの家に。私と賢一さんは学校、有川さんと武田君は瑞希の家に」と言って顔を窺いみる。 少々恵美子の反応に心配したが、微妙に頷くのを確認すると、それぞれが別れた。 数百メートルほど走ると、賢一は沙紀の腕を掴む。 「お前、有川と一緒の方が良いんだろう?」 沙紀の気持ちを、賢一が言った。何となく、読み取られているだろうと、少々の予感がしていたのだ。 「どうして俺と一緒を選んだんだよ」 「誤解を生むような言い方、しないでくれる?」 沙紀は少しきつめに睨む。 「――あ、わりぃ。・・・何か理由でもあるだろう」 「歩きながら、喋りましょう・・・」 一間置いて、口が再び開く。 「私と有川さんが一緒だと、男ペアと女ペアになって、いざと言う時難しいでしょう。力関係の事件に巻き込まれる恐れがある」 「じゃ、俺と有川、お前と大祐だったら?」 「それは流石に・・・。でも、賢一さんと有川さんだったら、また揉めるんじゃない?」 「そうと・・・きますか」と頭を掻く。 |