光と闇。それが在って、世界が成り立つ。 どちらも欠けてはいけない。それが無ければ、この世の均衡が成り立たない。 何かを得るのであれば、それなりの何かを失わなければならない。 それが
この世の掟
今こそ目覚めの時……
……目覚めよ ……ざめよ………… …………
目覚めよ 我が大いなる支配者となる者
救(メ) 世(シ) 主(ア)
*
リズムよく灯を渡っていく。 それは、まるで天使のようだった。 軽い足のりで、住処を転々としながら誰かを探している。
「見つけた」 ≪コノイエカ?≫ 「きっとね」 ≪サッソクハイルカ≫ 「だめ。様子見ましょ」 ≪フム≫
少女は左手をかざした。そして人差し指を立て、その先からは白い光の玉が形成された。 それは少女を瞬く間に包み込む。 ≪Lana……≫ 「今日から私はLanaじゃないわ……」 ≪……カエルノカ?≫ 「えぇ。お父様からの命令よ」 そして、目を潜めた…… 次第に目の色が赤くなる。 「また一つの星が、滅んだわ……」 暗闇に、浮かぶ、赤い目は、消えることなく……
*
ジリリリリリリリリ――――…… 時計の音に起こされ、少女は飛び上がり身支度をする。 「あの時計、絶対に新しいのに取替えよ。びっくりしちゃう」 暖かな木漏れ日。が部屋を明るくさせる。カーテンを開け、窓も開けて空気の循環。 パンをオーブンに入れ、コーヒー豆をパックの中に入れて機械とセットして電源をONにすると、早速ジュジュジュという聞きなれた低音が部屋に響き渡る。 その間に卵をフライパンに落とし、目玉焼き。 ベーコンを入れ、冷凍したほうれん草を入れ、ブラックペッパー・醤油で味を調える。 「ん、おいし……」 リビングのテーブルに着き、一息しながら朝食を取ると、リモコンの電源ボタンを入れ、ニュース番組にする。流れてくる映像は、深夜の出来事だった。 “推定三時十五分ごろ……。 ここ、香坂市で、奇妙な発光体を目撃。その光はすぐに消え、専門家ではUFOの疑いが出ているという内容。” 「光……?」 この家の主(というのが相応しいであろう)の藍川瑞希。そういう内容にはあまり興味がないのだが、どこか惹かれたらしく、じっとその内容を聞いていた。 「あ……時間!」 あと十五分で食べ終わらなければ、朝礼に間に合わない――
* *
ゆっくり息を整えると、ドアを開ける。遠くで馴染みある2人が瑞希に気づく。 「セーフね! おはよう」 「うん。ドタバタでした……。おはよう恵美子さん、沙紀」 「おはようございます。起きたの遅かったの?」 「ううん。今朝のニュースでね……あ」 思わず口を止めた。 「何よ、気になるじゃない」 恵美子が顔を覗き込む。躊躇いがちに、テレビで放送された内容を簡単に話すと「あぁ、あれね」とあっけなく返された。 しかし、瑞希が思わず遮ろうとしたのには理由があった。今朝のニュースのような怪奇的な事柄を話すと、恵美子は非常に関心を寄せてくる。しかし、彼女とは逆に、瑞希はそういう事柄に興味なく、関心なく、いつもバカにしている。 「残念ながらUFO関係は全然興味ないのですよ。ご安心なされ!」 「ふん。それならちゃんと言って下さいよね」 恵美子に向けていた顔を違うところに移動させると、いつもの異性と目が合った。 武田大祐。このクラスで、唯一瑞希には浮いていると感じられる存在の男子生徒。 何せ、学ランのボタンは第3まで外されていて、髪も少し青みがかっている。 しかし、だらしないという感じではなく、そのものが彼なのだという、違和感ない服装。そのため、周りからは特に注意される事がない。 けれど、それが瑞希にとっては不思議だった。如何して注意されないんだろう。 どうして、それが彼そのものであると思えるのだろう、と。 「どうしたの、武田君見てるの?」 「……うん」 「告白されて、何とも思わないって言うほうがおかしいか」 「もともと、お互い好きな相手だしね」 沙紀が目を細め、にやりと笑みを向ける。 「でも、小林奈菜には気をつけた方が良いよ」 どこからともなく声がした。三人の視界外に彼女はいた。 「青葉さん……」 「彼女、体が弱いんだけどさぁ、周囲からはそれを利用して彼に近づいているんじゃないかっていうくらい。色々噂がある中で、武田君の恋人っていう方が大きいかな」 「え! 瑞希が好きなんじゃなかったの!?」 「ち、ちょっと、恵美子さん」 そう慌てるのもおかしくなかった。 ついこの前、このクラスメイトを通じて、武田大祐が藍川瑞希を好きだと言ってきたのだから。それが本当か嘘かは分からない。 何せ、その告白の後、クラスから……教室から出て行ってしまったのだ。変に追いかけると、自分まで巻き込まれるかもしれないと思い、瑞希は動かなかった。 それから、しきりに彼を注意してみるようになったのだ。 しかし、今の噂(?)は本当なのだろうか……と脳裏をうごめく。 (もし、本当だったら、私への気持ちは嘘になるわけで) 「訳わかんない……」
* *
「あ、れ? 有川ちゃーん」 本を返しに保健室に来たが、保健医である有川照美は不在らしい。瑞希に付き添いで、中原沙紀も同行。 「居ないわね」 「珍しいなぁ。どこ行ったんだろう」 あまりこの室内から出て行くことはない。 とりあえず机に本を置く事にし、室内から出た2人。 すると、異様な感覚に襲われる。 「右と左とで、空気が違うような……」と両手の人差し指を立て、方向を示すようにし、瑞希を見る。 「私も、そう思う」 そういいながら瑞希は廊下の隅の窓に目を向けた。そして空を見上げると、異常ともいえる光景。 「月が、太陽を覆い隠してる」 「皆既日食かしら? 珍しいわね」 「それにしては、青白いよ? 普通、黒くなるでしょ? というより、月が、青白い……え!?」 「え?」 沙紀もその言葉に半信半疑で近づく。すると確かにいつも見る月とは全く違う月が、出ていた。 太陽からの光が途絶え、辺りは暗闇に包まれた。瑞希が咄嗟にケータイを取り出し、カメラ設定にして、ライトをつける。付近の状況しか分からないけれど、無いよりはマシな明るさ。 近くにはちゃんと沙紀がいる。 それを確かに確認した。 そして辺りは静かだった。 「一体、何が起こったのかしら……」 「皆どうしてるのかなぁ。暗くなって、慌てて驚いて、声も出ないのかなぁ」 「にしては静か過ぎるわ。もう少しざわめいてもおかしくない筈よ」 瑞希と沙紀は慎重に歩いた。 しかし、いくら歩いても、何もぶつからなければ、誰にも会わない。 次第に慎重な気持ちが薄れていく2人。 「誰にも会わないね」 「変だわ」 沙紀の声のトーンが下がった。 「沙紀―! 瑞希!」 え? と振り向いた後ろには、小野賢一と恵美子が走ってきていた。2人ともケータイのライトで明かりを灯しながら走ってきた。 「急いで其処を左に曲がって、理科準備室に入って!」と恵美子からの指示。 「! 恵美子さん? ココがどこなのか――」と質問しようとする瑞希の言葉をさえぎり、「第3音楽室の前よ。早く!」と恵美子は叫んだ。 沙紀も瑞希も言われるがままに、左に曲がった。恵美子が勢いよく先回りし、戸を開けると室内に飛び込むように入る。賢一は素早く戸を閉めた。 そして耳を近づける。真剣な表情で、外の様子を探る。 「何なの? 何があったの?」 「あたしにもさっぱり。突然全校生徒の目の色が青白くなって、あたしと賢一に向けられたの。びっくりしちゃって、走ってきたら瑞希たちが居て、何とも無い事を確認して……よかったぁ」 ゆっくりと戸を閉め、汗だくの顔を袖で拭う賢一。それを瑞希と沙紀は驚いた目で見つめる。 「行ったぜ。――はぁ、腰抜け、た……」 |