室内は当然ながら無音の状態が続いている。何も起こってなくとも、4人は脱力感に襲われていた。 いつ、どこに、誰がいるかも分からないこの状況。 そして、如何してこうなったのかの見当も付かない。 ただただ、時が進んでいくだけ…… 沈黙が流れ行く中、ふぅ、と誰かがため息を出した。 こんな静かな空間に、少しでも何らかの声が聞こえると、不安になってしまう。恵美子はそう感じながらもため息を出した主である賢一に意識を向けた。 「賢一、どうかした?」 「……いや。お前らさ、家が心配してるよな」と賢一が会話を切り出す。ケータイを覘くともう17時半を回っている。普通ならば下校かもしくは部活だが、外は暗闇に包まれている。 「私は、一人暮らしだし……瑞希は?」と沙紀。 「両親共に単身赴任で、一人。恵美子さんは?」と瑞希。 「同窓会で、夜遅い」 「お前が一番あぶねぇな……」 と言っても、抜け出すには、やはり色々と教室の前を通らなくてはいけないのだが……。 ますます静寂が4人を襲う。 「あ……」 恵美子の声に、賢一が反応する。 「何?」 「電池。切れる……」 「あ、私のもあと少しで」と瑞希の声。 「そんなにここには居られないわね。どうにかしないと本当に体が持たないわ……」と沙紀。 「手分けして有川を見つけるか。俺と恵美子、瑞希と沙紀でいいか?」 賢一の声に、それぞれが頷き、注意しながらその教室から出て行った。 「ケータイはみんな持ってるよな。これ、充電器3個あるから、もしもの時に使え」 「あるんじゃん」と恵美子が上目遣いで賢一を見る。 「どうして3個もあるの」と不思議に思うのも無理はなかった。
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階段をゆっくりと降りる。足音が妙に響くのを防ぐ為に、つま先から降りることに心掛ける。 沙紀は息を殺し、身をかがめて先に先に進んでいった。 一緒に同行していた瑞希は途中でまた別れる事となった。 そして何かを踏んだ。硬い何かの塊のようなもの…… 「何?」 下から水滴が落ちるような音と共に、何者かの鳴き声が聞こえてきた。 「!」 何かが沙紀の頭上を飛ぶ。その瞬間に沙紀は手をかざした。 それはただ、自分のみを守る為の行為だったのだが…… 真っ白い、何も汚れのない光線が、沙紀の手の平から放たれた。 ヴギャウゥ ……ギャウ 耳に響く蛙のような声が聞こえたかと思うと、それは直ぐに消え去った。そして沙紀は自分の体全体に異常を感じた。 「どうかしちゃったの? 私」 光線の出たと思われる手の平を、反対の手でギュット握り締め、奇妙な感覚を感じながらも、次はその武器を頼りにしようと感じながらも先に進んだ。
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「あ……」 ついに瑞希のケータイの電池が落ちてしまった。 瑞希は両手でケータイを握り締め、深呼吸をし、再び歩きだす。 充電器はもしもの時にとって置こうと考え、まだ使わない彼女。 道は何処までも遠い。そして暗い。 最初は何とも感じなかった瑞希の身体は、暗闇と沈黙から、次第に恐怖心により震えだしていた。 とにかく有川を探さない限り、自分の身の安全、沙紀や恵美子、賢一に危険が降りかかってしまう。 何かの手すりにつかまり、慎重に足を進めていく。 しかし、何かに足が絡まり、バランスを崩す。すると、何かが腕に触れた。 「きゃ!」 「掴まれ、藍川!」 だれだろうと思いながらも、その声の主、そして近くに感じるそのものの腕を暗闇に彷徨う手が必死で探し当てる。 何か強い力に引き戻され、何処かから落ちようという体制になっていた身体は引き戻された。 瑞希は呼ばれた方を向いたが、腕は近くにあるのに姿さえ見つけられない。 「だ、れ……?」と口元が震える。 そして相手の何かが瑞希の耳元に触れた。一瞬肩を震わせると、何がぶつかったのだろうと目を開ける。相手の顔がうっすらと目に映り、鮮明になった。 「武田……くん?」 彼は瑞希の近くにいて、通常なら判別ができるはずだった。しかし、出来ないと言う事を彼は判断した。 「どうして、ここに?」 瑞希は大祐にそう問い質したが、何も答える事はなかった。そして遠くへと、姿を消した。 「あ、待って! 一人で行動しちゃ……! 武、田くん……」 完全に姿が見えなくなり、緊張が抜けた瑞希は、その場へ座り込んでしまった。
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ドン……と鈍い衝撃が体を駆け巡る。あまりの痛さにその場にへたれ込んでしまう。 片手で腕を摩り、ゆっくりと立ち上がるが、あまりの多さに対処が出来ない。 「恵美子、そっち、どうだ!?」 「だめ! びくともしない」 持っていた鍵でとある教室を開けようとするものの、手の震えや焦りか、それとも鍵が合ってないのか、なかなか入らない。 賢一のいる場所から、数多くの攻撃音・爆発音が響き、心配になった恵美子は何度も後ろを向く。 「賢一ぃ!」 賢一は、恵美子が自分を心配で見ていることに気づく。 「ばかやろっ! 俺のことはいいから早く開けろ!」 そう言われ、戸に体を向ける。気になる彼を(無事でいて)と心祈りながら……。 その時、何か暖かな感覚が恵美子の手を摩った。恵美子はその感覚に、一瞬手を止めた。
((みんな、来て。第2教等 保健室へ))
「第2」 「教等?」 「保健」 「室?」 瑞希、沙紀、恵美子、賢一。それぞれが合図のように言葉をつなげる。 ((アイコンタクトレンズをテレポーテーションさせるわ。目を閉じて)) 「有川ちゃんなの?」と叫ぶ瑞希。 「ダメよ! 敵が、襲って」 沙紀がそう言おうとした瞬間、瞼に異常を感じた。 ((私が手を貸すわ! さぁ、早く!!)) |